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サブハーフへの道(岩根幹能  医師)


1.3回のマラソンを走ってみて

弁慶、牛若丸、天狗さんたちと
弁慶、牛若丸、天狗さんたちと

第17回adidas・ 紀州口熊野マラソンに参加しました。3回目のフルマラソン挑戦です。1回目は第14回で4時間48分15秒、2回目は第16回で3時間57分23秒でした。

3回のマラソンを体験して、一番つらかったのは初マラソンです。何といっても5時間近く走り続けたこと、後半は完全にエネルギー切れで本当につらかったです。そのため翌年の第15回大会はフルを走る気になれず、ハーフに出場しました。

2回目のマラソンは痛みとの闘いでした。20kmあたりで現れた右足ふくらはぎの痛みに2時間近く耐え続けたことは今でも強く記憶に残っています。でも、一番うれしかったのも2回目。サブフォーという大きな目標を掲げて練習を積み上げ、痛みに耐えて達成したことはこれまでの半生で最も大きな喜びのひとつでした。

さて、3回目のマラソンは練習の経過で得られたタイムにもとづいて、3時間40分切りを目標としていましたが、予想以上に良いタイムでゴールすることができました。ゴールタイムは3時間34分33秒、平均ラップタイムは5分05秒/kmでした。過去の成績を考えると、かなりのスピードで走りきったことになりますが、今までで一番楽なレースでした。最初から最後まで「楽だ」から「少しきつい」というペースを維持し、しかも、当然のことながら走っている時間はこれまでで一番短く済んだので、ちょっとあっけなく感じるほどでした(表1)。

表1.マラソンの記録
  大会 年齢 ゴールタイム 平均ラップタイム
初マラソン 第14回 42歳 4時間48分15秒 6分50秒/km
2回目 第16回 44歳 3時間57分23秒 5分38秒/km
今回 第17回 45歳 3時間34分33秒 5分05秒/km

2.3度目のマラソンの経過

やや飛ばし気味にスタートし、やや身体が重い感じやぎこちなさを10km過ぎまで感じながらの序盤でした。コンディションを整えて挑んだのに、あまり調子良くないなぁという感じでした。

ぎこちなさにとって代わって表れたのが脇腹痛です。15km〜20km過ぎまで悩まされ、痛みでなかなかスピードが出ませんでした。朝食摂り終えたのがスタートの2時間前ということで、ちょっと遅すぎたのかも知れません。

しかしながら、腹痛が消えてからはどんどん調子が良くなっていきました。いつになったら疲労の壁が立ちふさがるのかと心配していましたが、前回苦しめられた30km・35kmの壁はなく、結局最後までエネルギーを維持することができました。正確に言うと41.5kmあたりでヘバリを感じたのですが。ラスト5kmは絶好調で、一番速いラップタイム(平均4分54秒/km)で走ることができました。30km過ぎからは前のランナーをどんどん抜いて行けたので、そういう意味でも気分の良いレース展開でした(図1)。

図1.1kmごとのラップタイム
1kmごとのラップタイム
ゴール
ゴール!

3.最後まで楽に走れるようになるために

予想以上にうまくいった理由は、予定通り練習をこなしてスタミナをつけ、栄養学的に最適な方法でレースに挑んだということだと思います。ちょっとサイボーグ養成的な感じで、ドラマチックさに欠ける気もしますが…

まずはエネルギー切れしないための栄養学について述べてみます。マラソンに備える食事のポイントは2つです。それは、(1)グリコーゲンローディングとスタート前後の糖分摂取のタイミング。いずれにしても糖分を筋肉にグリコーゲンとしてたくさん貯蔵させておき、本番で枯渇しにくくするために行います。この項目の情報は京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻栄養化学教室のホームページを参考にさせていただきました。

(1)グリコーゲンローディング

グリコーゲンローディングは、次のような方法で実施しました。前の週の月曜日から木曜日は低炭水化物、高たんぱく質(やや高脂肪)。ご飯は多くても茶碗の75%まで。やや極端な朝食の例:冷奴に納豆をかけ、卵と野菜のお浸し、ヨーグルト。昼食の例:野菜スープ、野菜サラダ、ゆで卵。夕食の例:忘れましたが、いつもアルコールは飲んでご飯は食べないので、同様に。この期間はごはんや麺類が恋しくなります。

待ちに待った金・土曜日は炭水化物オンパレードです。金曜日はレース2日前ですが、早朝に軽く5km走り、一旦グリコーゲンを減らしました。その後は朝から3食をご飯、パスタ、そば、パン、ピザと、入れ替わり立ち替わりで食べ、ここぞとばかりに炭水化物を堪能しました。

前夜と当日朝はバランス良く(繊維質は控えて)+大量の炭水化物です。レース前夜はホテルで和食のコースを食べましたが、最後にご飯を3杯おかわりしました。当日は10時スタートなので、本当は7時までに食べ終わりたいところでしたが、ホテルの朝食が7時30分からだったので食べ終わりは8時でした。いつも通りバランス良く食べることに加えてご飯、パン、うどん、大福餅を食べました。食べ終わりが遅かったのでレース中に脇腹痛が出たのはすでに述べたとおりです。もうひとつ大事なことは、朝はコーヒーを飲まないことです。カフェインによる利尿効果でおしっこに行きたくなることを防ぐためです。

(2)スタート前後の糖分摂取

さて、もうひとつの問題であるスタート前後の糖分の摂り方です。マラソンでは主に脂肪分を分解してエネルギー源にしています。脂肪分解にはグリコーゲンも利用しますので、レース前半でグリコーゲンを枯渇させてしまうと脂肪エネルギーも使えず、ヘバってしまいます。それではレース直前まで糖分をしっかり摂れば良いのかというと、そうではありません。食事を摂ると血糖値が上昇します。すると、これを下げようとして膵臓からインスリンが分泌されます。ところが、インスリンは脂肪分解を妨げる方向に働いてしまい、主要である脂肪由来のエネルギー供給に問題が生じます。従って、レース直前は糖分摂取を控えることが必要です。食後2時間程度はインスリンが上昇していることから、3時間前までに食べ終わるのが理想だと思います。

予測ゴールタイムの5時間前まで食べ続けるという方法を提唱している方もおられるようですが、サブスリーランナー以外ではスタートタイムの2時間以内も食べることになってしまうので、理論的には良くないように思います。マウスの実験ですが、運動直前に糖分補給させると、運動継続時間が短くなったという報告があるようです。

さて、一旦走り始めると交感神経が活性化します。そうするとインスリンは分泌されにくくなります。従って、走り始めてしばらくしてからは糖分補給を積極的に行っても大丈夫です。運動開始後に糖分補給した方が運動継続時間が長くなったというデータもあるようです。

今回、私は23km地点で130kcalの小さなゼリーを食べました。不思議と23km以降はまったく脇腹痛を意識することがなくなりましたので、その後のスピードアップにつながりました。また、その後は口の中で壊れやすい飴を2個、キャラメルを1個食べました。カロリーとしては大したことないものですが、気分転換になったように思います。

水分補給ですが、当日の気温は10℃を少し超えていましたし、前半は晴天の中を走りましたので、給水地点では必ず給水しました。熱痙攣予防のため、すべてスポーツドリンクを選びました。飲みながら走るというような器用なことはできませんので、立ち止まって素早く飲むと決めていました。パンやバナナは食べませんでした。バナナは食べても良かったのですが、時間を気にしていたので止めました。パンは口にすると飲みこむのにかなり時間がかかるので最初から食べるつもりはありませんでした。

4.コンディション作り

前回(3時間57分)と今回(3時間34分)との練習量の比較を表2に示します。前回も今年も本番は2月の第1日曜日ですので、直前練習は1月までです。昨年1月は234km走っていますが、12月は72kmしか走っていません。それに比べて今回は1月に288km走っているのに加え、12月も180km走っています。11月は85kmと少なかったのですが、10月167km、9月134kmと、時間をかけて身体を作り込んでいました。30kmのLSDを走ったのは、前回は2回(最速2時間56分40秒)、今回は3回(最速2時間43分54秒)でした。10kmのベストタイムは前回が48分55秒(4分54秒/km)、今回は46分37秒(4分40秒/km)でした。

表2.練習記録
走行回数
(回/月)
走行距離
(km/月)
平均距離
(km/回)
2010 11 8 100.5 12.6
12 6 71.6 11.9
2011 1 16 234.1 14.6
第16回→ 2 10 121.6 12.2
3 6 65.5 10.9
4 11 114.8 10.4
5 5 55.7 11.1
6 4 42.4 10.6
7 7 78.8 11.3
8 5 53.3 10.7
9 11 133.9 12.2
10 14 167 11.9
11 8 85.2 10.7
12 13 182.3 14.0
2012 1 17 287.9 16.9
第17回→ 2

とても興味深いことを発見しました。練習でのハーフのベストタイムは本番の14日前に記録した1時間47分11秒ですが、これを2倍すると3時間34分22秒となり、今回の3時間34分33秒に極めて近い結果でした。ちなみに前回のハーフベストは1時間57分37秒で、2倍すると3時間55分14秒になり、実タイムより2分以上速いのですが、本番ではかなりの足の痛みに耐えて走ったので、万全だったら同じくらいのタイムが出たと思います。また、ハーフのペースは10km最速ペースの10%増し位になっていました。

ということで、来年3時間30分を切るためには10・11月150km、12月200km、1月300kmを目安に走り込み、ハーフを1時間45分で走れるようになることと、10kmを45分14秒(4分31秒/km)で走れるスピードをつけることが目標です。って、できるかなぁ。

表3.練習でのスピード記録
距離 第16回 第17回
達成日 タイム /km 達成日 タイム /km
10kmベスト 30日前 00:48:55 4:54 16日前 00:46:37 4:40
30kmベスト 27日前 2:56:40 5:53 34日前 2:43:54 5:28
ハーフベスト
(×2)
22日前 1:57:37
(3:55:14)
5:34 14日前 1:47:11
(3:34:22)
5:05
実記録 レース日 3:57:23 5:38 レース日 3:34:33 5:05

5.来年のサブ3.5に向けて

来年3時間30分を切るために、次のような計画を立てました(評4)。すなわち、10・11月は150km、12月は200km、1月は300kmを目安に走り込みます。その結果、10kmを45分14秒(4分31秒/km)で走れるスピードをつけ、ハーフを1時間45分で走れるようになれればサブ3.5は達成できます。って、できるかなぁ。

表4.サブフォー達成のための練習目標
距離 第18回に向けての目標
達成日 タイム /km
10kmベスト 3週前 00:45:14 4:31
30kmベスト 5週前 2:30:00 5:00
ハーフベスト 2週前 1:45:00 4:59
実記録 レース日 3:29:59 4:59