NSメディカル・ヘルスケアサービス
| TOP |
NSメディカル・ヘルスケアサービス

サブハーフ達成記!(岩根幹能  医師)


レース当日

2013年2月3日、最終目標であるフルマラソン3時間30分切りに挑戦する大会がきました。晴天、気温は12度と、やや強い風が吹いていましたが天候に恵まれました。自分にとっては5回目のフルマラソン挑戦です。記録は順調に伸びてきていて、昨年の大会の記録は3時間34分33秒(あと1分早く走りたかった!)。事前の練習を昨年よりも少し強化すればサブ3.5は達成できるだろうと思っていました。具体的には12-1月に30kmランを3回(昨年は2回)することです。また、11月28日には第2回神戸マラソンに出場し、その前にも2回30km走っていますので、時間をかけて貯筋してきたという自負心がありました。

ちなみに、その神戸マラソンではタイムを気にせずエンジョイするつもりでした。11月で気温も高く、膝などへのサポート機能の高いスパッツをはかず、下半身はショートパンツのみで走りました。練習量が足りなかったこともあり、35km過ぎにある神戸大橋を登りきった後から足が動かなくなってしまいました。記録はネット3時間45分54秒、グロス3時間41分52秒。レース終盤でのスタミナ切れという体験がその後のサブ3.5チャレンジに悪影響を与えてしまったのですが、それは後述します。

サブ3.5を達成するためには、210分÷42.195km=4分58秒/kmというスピードが必要です。実際にはスタート後の混雑や給水などで時間がかかるため、4分55秒/km位が目標になります。これを本番での目標ペースとしました。

距離 ペース
4分50秒/km 4分55秒/km
10km 0時間48分18秒 0時間49分12秒
20km 1時間36分36秒 1時間38分24秒
30km 2時間24分54秒 2時間27分36秒
40km 3時間13分12秒 3時間16分48秒
42.195km 3時間23分26秒 3時間27分36秒

スタート!

梅の花がほころぶ本番当日の気温は12度。走るには暑いくらいのコンディションのため、上半身は半袖、準備した手袋は一度も着ける必要がありませんでした。問題は下半身です。この暑さなら防寒という意味ではまったく不必要なスパッツをはいて走りました。ランナーなら誰でも知っているCWXという関節サポート機能があるものです。神戸マラソンで最後に膝周りの筋力疲労が生じたので、なんとなく心配でスパッツに頼ってしまいました。

ところがこれが完全に裏目に出ました。走り始めて間もなく、左のふくらはぎが痛くなってきました。締め付け効果が強いスパッツなので、血流が阻害されているのかも知れません。閉塞性動脈硬化症(ASO)という病気があります。下肢の血管に動脈硬化が起こって内腔が狭くなるために、安静時には問題ないのですが、長距離を歩いたり階段を上ったりすると筋肉が必要とするだけの血液が得られずに足が痛くなり、休憩しなければいけなくなってしまいます(間欠性跛行と言います)。それと同じ状態に陥ってしまったと感じました。練習のときにはほとんどスパッツをはかなかったのに、本番でスパッツを選択したことをすごく後悔しました。「ひょっとすると痛みがひどくなって棄権しなければならなくなるかも」とか、「どこかの建物の陰で脱いでしまおうか、捨てるには高価だけど…」と考えました。結局のところ、記録を達成したいという強い欲求を持っている一方でそれを達成できるかどうかわからないという不安がストレスになっていたのだろうと思います。神戸の時は単に走りこみが不足していたからそうなったけれど、今回は十分な練習を積んだのだから、そのことを信じれば良かったのです。自分程度のレベルですらストレスを感じるのだから、トップアスリートが一発勝負の舞台で自分の目指すパフォーマンスを発揮しなければならないときのプレッシャーはものすごいだろうなと感じます。

徐々に本領発揮!

左ふくらはぎに気持ちが集中していましたが、走る速度としては序盤4分50秒/km前後のスピードを維持できていました。本来、序盤は控えめにして後半のために体力温存するようなペース配分が望ましいのですが、自分の最高スピードはどんなに頑張っても4分35秒/分位で、前半の遅れを後半に取り戻すことができないのです。身体が温まらないうちから早いペースで走る必要があります。

その後だんだん身体が温まり、体が軽く感じるようになってきました。5,6kmあたりからはあれだけ心配していた左足の痛みがウソのように消えてなくなりました。「ああ、やっぱりメンタルで負けていたのだ」と思いました。そこからは自然とスピードが出てきます。10km地点のタイムは自分の時計で47分55秒(公式タイムは48分24秒)と、予定よりも1分以上早く通過しました。その後も18km地点まで4分45秒/km前後で進みました。快調です。暑いので、給水は水ではなくスポーツドリンクを立ち止まって確実に飲むことに決めていました。給水ポイントは沢山あったので各ポイントで1杯飲めば大丈夫そうでしたが、脱水になるとパフォーマンスが低下するので欠かさず立ち寄りました。

腹痛出現!

しっかりと給水したのが原因なのかどうかはわかりませんが、18kmを過ぎると左わき腹痛が生じてきました。痛くてスピードを出すことができません。中間点である21kmを過ぎるころにはついに5分/kmをオーバーするようになってしまいました。このままでは目標達成が困難になります。困ったなあと思いながら走り続けました。24km地点、腹痛で前屈みになりがちなフォームを、背筋を伸ばして真っすぐに立つ姿勢にしたところ、わき腹痛が消えてくれました。姿勢が直接的な原因かどうかはわかりません。でも、とても助かりました。そこでまたペースが上がりました。30km過ぎにはこのレース最大の上り坂があります。そこでは5分10秒/kmまで落ちてしまいました。その後すぐに持ち直しますが、そろそろ疲労の蓄積が出てきました。34、35kmでは再び5分/km以上かかるようになってきました。振り返ると30kmの壁、35kmの壁があったということになります。

そして栄光のゴールへ

35km以降は昨年の経験が生きました。昨年はラスト7kmをレース中最速のペースで走りきることができたのです。今回も35kmを過ぎたら強気でペースアップしようと決めていました。息が上がり、呼吸は「ハー、ハー」というではなく、「バー、バー」と声を出しながら走りました。前を走っているランナーは後ろから変なのが来たなと思っていたことでしょう。レース後は大声を出した後のように喉がひりひりしました。息は上がりますが、脚はまだ元気でした。ラスト3kmは4分45秒/kmという自分としてはかなりのハイペースで歓喜のゴールを迎えたのでした。正式タイムは3時間26分26秒、2099人中155位という成績でした。前回記録と比べると8分ほど早くなっただけですが、その8分という時間は綿密な事前準備をし、欲望という名のプレッシャーとの戦いを経て掴み取った大きな喜びそのものだったのでした。

図1.GPS時計によるレースペース
GPS時計によるレースペース
表.10km毎の記録
距離 時間
10km 0時間47分55秒
20km 1時間35分41秒
30km 2時間24分44秒
42.195km 3時間26分26秒
4分53秒/kmペース